岩波文庫 風車小屋だより (1869)

パリ在住のジャーナリスト兼詩人のドーデーが、風光明媚なプロヴァンス地方の風車小屋を購入して冬の間はここに住むことにしたのである。移住初日の描写がある。

《不意を打たれたのは兎たちである!・・・・

ずっと前から風車小屋の戸が閉められて、壁も床も草に埋もれている有様に、彼らはとうとう粉挽きという人種が滅びたのだと思い込んで、これはよい場所だとばかり、総司令部か参謀本部のようなものにしてしまった。すなわち兎軍ジェマップの風車である・・・私の着いた晩、床に車座となり月の光に足を暖めているのが確かに二十匹はいた・・・・明かり窓を細目に開けた途端、タタタターッ!ここに露営部隊は敗北し、小さな白いお尻は、みんな尻尾を立てて草の茂みに逃げ込んだ。本当にまた帰って来るといいが。

もう一人私を見て非常に驚いたのは、この風車に二十年以上も住んでいる二階の借家人、哲学者顔をした梟の爺さんである。私は彼が上の部屋の壁土や落瓦の中で、心棒の上にじっと突っ立っているのを見つけた。彼はしばらくその丸い目で私を眺めたが、知らない人なのでびっくりし、「ホー!ホー!」と鳴き出した。》

言葉の使い方が柔らかくてやさしい。このように使うのなら言葉も捨てたものではない。

収録されている『アルルの女』も読んだが、一般に流布しているあらすじよりも簡潔なものだった。戯曲のテキストは探したが見つからない。