映画 ひまわり (1970)

  ヨーロッパの闇と毒が適度に滲み出て来る大人の物語である。モテたけど結婚せずに33歳まできたアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)はナポリの女ジョバンナ(ソフィア・ローレン)と関係を結ぶが兵役を12日間逃れるため彼女と結婚する。発狂したふりをして妻を襲ったアントニオは精神病院に入れられるが詐病がばれてロシア戦線に征く事になる。案の定近代兵器を装備したソ連軍の猛攻の前に部隊は敗走し雪原を行くアントニオはとうとう力尽きて雪の上に倒れてしまう。

  やがて終戦となり復員を待つ新妻のジョバンナと姑の元にとうとうアントニオは現れず消息不明となる。当時の状況を知る関係者はアントニオは死んだと思っている。だがどこかでアントニオは生きていると信じるジョバンナは行動を起こす。この時のジョバンナの表情は獲物を狙っている鷹の様である。さてソ連に入国したジョバンナはイタリア人戦没者の墓地を訪れ農家の人にアントニオの写真を見せて回る。これがビンゴでボロ屋に住む若夫婦の夫がアントニオだと言う。ジョバンナは家を訪れ妻のマーシャ(リュドミラ・サベーリエワ)に事情を聴き工場から帰ってくるアントニオを駅で待つ。だがアントニオを見たジョバンナは泣きながら汽車に飛び乗りナポリに帰って行った。

  ジョバンナを見てからというものアントニオは憂いに沈んだ様子で妻が心配する。アントニオは一時帰国を当局に申し出るが飛行機の予約が先までいっぱいでキャンセル待ちとなる。時は過ぎジョバンナが所帯を持ったころやっと当局から飛行便の割り当てが届く。アントニオはミラノの駅に着くとジョバンナに電話するが向こうの事情を知り会わずに帰ろうとする。だがウィーン行きの列車がストで休止となっていた。アントニオが駅前で途方にくれていると娼婦が声をかけて来る。泊まるところがないアントニオは娼婦の家に行くがやはりジョバンナに電話をかけてしまう。住所を聞いたアントニオは嵐の中タクシーでアパートに向かう。ジョバンナはアパートに入れてくれてアントニオの言い分を聞いたがやはり納得できないようだ。二人で逃げようとアントニオが言うが子供を犠牲にできないとジョバンナは断った。ロシア土産の襟巻きを置いて翌日の列車でアントニオは帰って行った。

  途中からは完全にメロドラマだがヘンリー・マンシーニの音楽が今回はとても冴えている。人間の業と理性のバランスがテーマのようだ。エンドロールにこれらは架空の人物、出来事であると書いてあった。ソ連で敵の兵士だった男が市民生活を送れるというのは変ですぐにバレてシベリアかカザフ送りになるのが相場ではと思った。