東洋文庫 江戸小噺集 1

読んでいくと冒頭からかなり毒が利いている感じがする。本文を少し紹介する。

《ぢゞとばゞ

ぢいは山へ柴かりに、婆は内で洗濯も何もせずにゐたれば、程なくぢゞが帰り来たを見れば、廿四五の男になって帰た。婆肝をつぶし 「こなた、どふして其様に若くならしやった」

「サレバ有難い事じゃ、アレあの山こへて、あちらの滝の水を一ト口のむと、此様に若やいだ、こなたもいて呑んでお来やれ」

婆も悦んでへこへこして行れたが途方もなく暇が入るから、ぢいが後からいて見たれば、婆はよくとしく呑ださうで、滝壺のはたで、 「おぎゃあおぎゃあ」》

《ふくらふ

「夜、目の見へる薬は有まひか」

と、人に聞たれば、

「ソレハふくらふの目を、黒焼にして、目へぬれ」

と云ふから、その通りしたれば、五六町さき迄、昼の様に見へたから、面白さに夜中あるき、夜があけると、マックラ》

《辞世

盗人をとらへ殺さんとする時

盗人「暫待てたべ、辞世の歌をよみたひ」

といふ

「ソレハ奇特な事じゃ、サアよめ」

といふたれば

「かゝるときさこそ命の惜しからめ兼てなき身と思ひしらずば」

皆人聞て

「ソレハ太田道灌の歌じゃが」

盗人「アイこれが一生の盗み納めでござります」》

以上の話は『咄落 今歳咄 (1773)』に収載されているものである。