フォークナー短編集 (5)

私(クウェンティン9歳)、キャディー(7歳)、ジェイソン(5歳)がナンシーの家まで夜道を行く。

《私たちは小道を下っていった。ナンシーは大声でしゃべっていた。

「ねえ、ナンシー、なんでそんな大きな声でしゃべっているの?」とキャディーはたずねた。

「だれが?あたし?」とナンシーがいった。「クウェンティンとキャディーとジェイソンが、あたしがでかい声でしゃべっているのを聴いてくださいよ」

「おまえは、まるであたしたちの仲間が五人いるような話しかたをするのね」とキャディー。

「まるでお父ちゃんもここにいるような話しかたじゃないの」

「だれが?あたしがでっかい声でしゃべってるっていうんですか、ジェイソンさん?」

とナンシーがいった。

(略)

「ナンシーがまたジェイソンのことを、“さん”なんて呼んだわ」

「シッ」

とナンシーはいった。私たちが溝を横切り、ナンシーがよく洗濯物を頭にのせ、身をかがめてくぐりぬけた柵をぬけていったときも、彼女は大きな声でしゃべりつづけた。それから、私たちは彼女の家にやってきた。そこでみんな足がはやくなった。彼女が扉をあけた。家のにおいはランプのにおいのようだったし、ナンシーのにおいは灯心のにおいのようだった。》

このあたりでも私がちゃんと加わっているし、印象の表現も私が感じたものである。とてもまともな叙述である。