埴谷雄高 死霊 その3

    津田家の祖母の埋葬の日、首猛夫は津田家に突撃した。津田康造は応接間のソファでアラビアの技術史本を読んでいた。錬金術王水の記述に感銘を受けたようだ。首猛夫は元警視総監である康造に問答を仕掛けそれに康造が応答する。どうやら首猛夫は一匹オオカミであり陰謀を計画中だという。しかも元警視総監の康造は自分を逮捕する事ができないという。 
 
    康造は首猛夫が誰であるかを思い出した。かつて自分が取り調べを行った神出鬼没の活動家だったのだ。首猛夫の云う陰謀とは死のう団の結成?であると明かす。錬金術により石を麵麭(パン)に変えることもできると言う。しかし君は三輪の父に似ていると言われた首猛夫は口惜しがって動揺する。続いて首猛夫は悪徳が何処から生じるのかという問いを発する。それに対する答えを首猛夫が自ら言うがかなり珍妙なものである。
 
   長い問答をしているうちに津田夫人が入ってきてもう墓地へ行く時間だという。津田夫人はグズグズする康造を促すように追い立てる。首猛夫が高志と与志の知り合いとわかると我慢できずに質問攻めにしてしまう。与志が安壽子のフィアンセとしてふさわしいかどうかつまり精神病かどうか疑念を抱いていたのだ。だが問答の末、与志も安壽子も青臭い子供に過ぎないのだと合点して安心する。三人は車に乗り埋葬場へ向かう。