失われた時を求めて (34)

ブロックの父親とニッシム・ベルナール伯父の話題に移る。プルーストはブロックの父親のことをスノッブだと言いたいようだが、意外と手強いところがありその容貌はオマール公爵の替え玉のようだと言う。一方伯父は虚言癖のあるスノッブで、プルーストは明らかに見下している。その容貌はサルゴン二世のようだと言う。

ブロック、プルースト、サン=ルーだけになった時、ブロックはシャルリュス氏の事をサン=ルーの面前で罵倒する。目を丸くするプルーストだが、さらに追い打ちをかけてスワン夫人の事を俺様に身を任せた商売女だと言う。いやはやこれがユダヤ人の本性なのか。

話はサン=ルーと彼の愛人の事へと進んで行く。これも重要な関心事である。一言で言うとスワンとオデットの関係の様なものなのだが、一方的にサン=ルーが振り回されているようだ。彼がバルベックにやって来たのもパリにいないで欲しいと彼女に言われたからである。

サン=ルーがバルベックを去るとプルーストはバルベックに現れた少女グループに心を奪われる。一人一人美人なのだが、チラッとしか見る勇気のなかったプルーストは妄想をたくましくする。そして彼女たちを遠くから観察するのである。以下引用文。(吉川一義訳)

《(略)私はどう思われたのだろう?娘はどんな世界の内から私を見ているのだろう?それに答えることは私には無理だった。望遠鏡の力で隣の天体になにかこまごましたものが見えたからといって、その星にいる人間がわれわれを見ていると断定したり、その人間がわれわれを見てどんなことを考えたかを言い当てたりするのが無理なのと同様である。》

そして妄想の行きつくところはこうである。以下引用文。(吉川一義訳)

《どんな女優にせよ、農家の娘にせよ、修道会の寄宿舎にいる令嬢にせよ、私はこれほど美しく、未知の魅力にあふれ、計り知れないほど貴重で、近づきがたいと思わせる娘たちを見たことがなかった。》