失われた時を求めて (54)

第七巻に入る。ある秋の朝、プルーストの目の前には真っさらな人生が広がっていた。呪縛だったものが消え、自由に使える資産と、すでに知り合った女達と繰り広げられるであろう恋の予感、プルーストが感じていたものはまあこんなところだろう。

その日の夜ヴィルパリジ夫人亭で行われる寸劇にプルーストは招待されていた。しかもサン=ルー(ロベール)の紹介で近いうちにステルマリア嬢と夕食ができるかもしれない。今返事を待っているところである。そこに加えてアルベルチーヌが部屋までやってきた。確かにすでに艶福家である。以下引用文。(吉川一義訳)

《当時は知るよしもなかったが、今ならその後に生じた事をはっきりと言える。切手や古い嗅ぎタバコ入れの蒐集はもとより絵画や彫刻の蒐集に生涯を捧げるよりも、女性に生涯を捧げるほうが、たしかに有意義なことではある。》

また多くの女性と上手に付き合う方法もかなり後ではあるが会得する。曰く、女性のコレクションのやり方の秘訣は、ガラスケースに少し足りない数の女性を入れておき、新しいコレクションが到着するのを待つスペースをいつも空けておくことである。

難解な文章に交えてさらっとこんな事を書くプルーストなので、フェミから支持されるような作家でないことは確かである。