失われた時を求めて (33)

サン=ルーの叔父のシャルリュス男爵が登場する。これでヴィルパリジ公爵夫人と合わせて三人のゲルマント家の人物が揃った。勿論プルーストもその場で紹介されたが、冷ややかな目線で応対されたのである。こういう場合プルーストの人物考察は、どんどんどんどん膨張して行きとても長い記述となる。挨拶が終わり辞する時シャルリュス男爵はこう言った。以下引用文。(吉川一義訳)

《それまで私にはことばをかけなかったシャルリュス氏が二、三歩うしろにさがり横にやってきて、こう言った。「今晩夕食の後ヴィルパリジ夫人の部屋でお茶を飲みます。どうぞご祖母さまとごいっしょにいらしてください。」そう言うと公爵夫人のそばに戻った。》

プルーストはやっと面目が保たれて安堵する。だがその日のうちにその安堵は打ち砕かれることになる。茶会ではシャルリュス氏は能弁で物言いも断定的である。彼の発言からフランス人貴族階級がユダヤ人をどう思っているかが垣間見れる。以下引用文。(吉川一義訳)

《シャルリュス氏が話したのは、一族が所有していた屋敷のことで、マリー=アントワネットが泊まったこともありル・ノートルが設計した庭園もあるその邸宅が、いまや裕福な金融資本家のイスラエル一族に買いとられてその所有物になっていることだった。「イスラエルって、すくなくともこの人たちは名乗っていますが、私には固有名詞とういよりこの民族の総称のように聞こえますね。(略)だがゲルマント一族の邸宅であったものがイスラエル一族のものになるとは!!!」と氏は大声をあげた。》