失われた時を求めて (47)

(ヴィルパリジ侯爵夫人邸での茶会の続き。)この場にはノルポワ侯爵も居ることからプルーストは父親のアカデミー立候補の件を持ち出すのだが、否定的な事を言われている。要するに立候補はおよしなさいということだ。容姿端麗で大資産家のゲルマント公爵が登場すると茶会が一段と盛り上がってくる。サン=ルーの彼女のことが話題になる。オリヤーヌは彼女のことを才能のない滑稽な女優と言い放つ。彼女が朗読したのはメーテルランク作「七人の王女たち」だったのだが、この作品に対するオリヤーヌの無理解に腹が立ったプルーストはこういう気持ちになるのである。以下引用文。(吉川一義訳)

《こんな女のために毎朝それこそ何キロも歩きまわっている自分は、なんてお人好しだろう!こうなったらこちらから願い下げだ、こんな女は。》

ブロックとノルポワ侯爵が真剣に話し合っていたドレフュス事件の話題がこちらに飛び火してきて、ゲルマント公爵、公爵夫人が話題に参入する。反ドレフュス派のゲルマント公爵はかなりカンカンになり、ドレフュス派のサン=ルーが引き合いに出され批判される。プルーストは?母方がユダヤ系株式仲買人なので微妙な立場である。小説の中では母親もキリスト教という設定ではある。小説の中でのプルーストの考察はなかなか優れたものであるといえよう。以下引用文。(吉川一義訳)

《(略)それゆえ政治上の真実なるものは、事情に通じた人物と近づきになり、いよいよその真実に手が届くと思ったその時こそ、かえって捉えられない。ドレフュス事件に話をかぎれば、のちのアンリの自白とそれにつづく自殺といった明々白々たるできごとが生じた時でも、ただちにこのできごとは、ドレフュス派の大臣たちと、みずから偽書を発見して訊問をおこなったカヴェニャックやキュイニェとによって、まるで正反対の解釈をくだされたのである。》