東洋文庫 日本中世史 原勝郎著(1906)

明治時代の史学界において名著とされた本書は流麗な文語体で書かれている。通読するのはやはり大変なので一部分だけ抜粋して味わってみる事にする。

《保延元年海賊競ひ発こり、上下の船運将に絶えむとせしや、四月八日関白忠通の邸に於て征討に関して議するところあり。別当顕頼発語して曰く、本所に命じて、諸々在々の住人等をして、海賊を捕獲せしむべしと。然れども是より先き既に制符を下して国宰に令するところありしも、未だ毫も行はるゝなかりしことなるを以って、内大臣宗忠新に議を出して曰く宜しく備前守忠盛、検非違使為義、両名の中一人を択びて追討の任を授くべしと。諸卿多くは曰く、忠盛の武威西海に振ふと聞けり、之遣はさば尤便宜多からむと。唯宗忠のみ撰択は全く勅定に任かすべしと主張せり。爰に於て頭弁資信之を法皇に奏す、法皇勅して曰く、為義を遣はさば、路次の国滅亡せむ歟、且忠盛幸に備前国司たれば、自ら便宜あるべし、宜しく早く追討の宣旨を忠盛に下すべきなりと。

是によりて之を観れば源平二氏共にこれ皇統より出で、同じく武将の裔なりと雖、一は獰猛鷲悍にして、畏怖すべきものとして、忌憚せられ、抑制せられ、一は恭謙柔順にして愛撫すべきものとして、親近せられ、登庸せられたるものにして、二氏の宮廷に有する因縁の浅深は、固より同日を以て論ずべきにあらざるなり。(略)》

引用と著述が一体となっているような文章だが読みやすく分かり易いと思う。