岩波新書 モゴール族探検記 (2)

本文から少し紹介する。

《アブドル・ラーマン老人の二番目の息子が、ダバーという黒い汚いツボのようなものをもって来てくれた。これは、この村でつくるという。材料は、ブテ・イ・シリシとう一種の植物である。その根を乾かし、水車でひく。それを布でこしてシリシという一種の「のり」をつくる。布で大体のツボの形を縫い上げその中に粘土をつめて、立体の形をととのえる。その外側に、シリシを水にとかしてととのえる。かわいたところで中の粘土をとりだせば、シリシは固まって、しゃんとしたダバーになる。まことに素朴な技術である。わたしたちはダバーを、ジルニーのモゴール部落における物質文化採集品第一号として、標本箱の中にしまった。

このダバーだって、しかしモゴール特有の文化ではない。これは、タイマニ族も知っている。モゴールは、大部分タイマニと同じであり、またかなりにパシュトゥーンの文化を借りているところもある。ジンギスカン以来のモンゴル文化の伝統は、ここでは何ものこっていない。その点では、わたしは全く失望した。》

人類学者梅棹忠夫の上質なエッセイになっているが、この探検の顛末のようなものが記されている。残念ながらこの地には13世紀の風習、文物は何も残っていなかったのである。