映画 人情紙風船 (1937)

 これは河竹黙阿弥作の歌舞伎、通称『髪結新三』を映画化したものである。新三という長屋の住人がいろいろな事をしでかし、大金をせしめた後ヤクザの親分に始末されるという暗い話である。

 映画そのものは至って普通の時代劇であり、武士の上下関係、婚姻の強制などの儒教的価値感が滲み出ていて、陰惨なものがある。徳川が造った江戸時代は、若者が損するだけの嫌な時代である。

 お通夜で酒を飲みどんちゃん騒ぎをするという長屋の光景があるが、録音もよかったし民族音楽的に興味深いものがある。浪人の又十郎の仕官運動、白子屋の娘お駒の縁談話が絡み合って進行してゆき、最後は無理心中とご法度の駆け落ちで終わるという最悪の悲劇だが、監督の山中貞雄の演出で、どこかしらユーモアでくるまれている印象がある。