本書は京都誓願寺の策伝和尚によって編纂された戦国・桃山時代の笑話の集成である。これにより策伝は落語の祖とも言われている。興味深かったものを一部紹介する。
《巻の三
ある人が小姓の名を、かすなぎと呼んで、使っているので、客が不審に思い、その理由をたずねたところ、「それはこういうわけだ。春長と書いて、かすは春日のかす、なぎは長刀のなぎさ」と答えた。》
この種の技巧を当字謎という。
《巻の三
「笛と書く時のえは、縮みえか、末のゑか、どっちがよい」ときかれて「されば定家の仮名遣にも、また源氏物語なども、縮みえを書いてある」と答えるのに対し、横から「いや、横え(への字のこと)がよい」というので、「なぜ」ときいたら、「笛は横にして吹くから」。そばでこのやり取りをきいていた禅門が、それで疑問が氷解したという体で、「なるほど、尺八の八も横えじゃ」といった。》
《巻の三
宗祇が連歌修行に東国を旅行していたときの事、二間四面のりっぱな堂があったので、立寄って腰をかけた。堂守が、「客僧は上方の人でござるか」「左様」「それならば発句を一つ致しましょうから、付けてみたまえ」といって、
新しく造り立てたる地蔵堂哉
と詠んだ。宗祇は、
物までもきらめきにけり
と付けた。堂守が「これは短いの」といった時、宗祇は、「そちのいや言(余った字)の仮名をつけたすがよい」といった。》
膨大にあるので(七百余話)このくらいにしておくが、文章から当時の雰囲気が伝わってくる。