伊豆の踊子のような実話的な話と思って見ていたら、さにあらず、福永武彦の創作という事である。作品中で廃市と言及される柳川市の音や風景が何だか幻想的で、舞台となる旧家もこの物語にふさわしい立派なものである。これまでにない音楽の使い方、映像の佇まいには驚かされる。大林宣彦は天才であるとしか言えない。
主人公の大学生は崩れたところがなく、明るく真面目だし、貝原家の次女安子も随分と魅力的で主人公を応接してくれる。静かな環境で論文作成に没頭する主人公だが、柳川の生活を楽しみながらだんだんと貝原家の深淵を見る事になる。
映画は偶発的な悲劇で幕を閉じるが、帰京する主人公を見送る次女の振る舞いは何だか意味深長だった。