岩波文庫 オイディプス王 (紀元前5世紀)

この劇の完全復元上演の試みは海外ではあるようだが映像媒体で入手できるものは無いようだ。岩波文庫のテキストからひたすら想像してゆくしかないだろう。

この劇は始まる前のストーリーが長くてアポロンの神託やスフィンクスの場面は飛ばしていきなり疫病と飢饉の時代から始まる。オイディプス王の統治するテバイはこのような惨状を呈していた。

《それと申しますのも、ほかでもありませぬ。王ご自身も目にされるごとく、いまやテバイの都は厄災の嵐に揉まれて、もはや死の大浪の真底から、頭をもたげる力もなきありさま。土地の作物は実りを待たずに立ち枯れ、草食む家畜の群れは倒れ、女らのはらむ子は死に、こうして国は滅びへと向かいつつあります。さらにそこへ襲いきたったのが、火と燃えさかる滅びの神。それは世にもおそろしい疫病となって国を荒らし、ためにカドモスの屋形は住む人を奪われて空しくなり、それにひきかえ暗いハデスは、いまや歎きと悲しみの声で、充ちあふれています。》

神官がこのように王に嘆願すると、クレオンがアポロンのお告げをもって帰ってきた。クレオンは言う。

《ではわたしが神よりうかがったことを申しあげよう。われらが主、ポイボス・アポロンの命じたもうところは、明らかにこうであったーーこの地には、ひとつの汚れが巣くっている。さればこれを国土より追いはらい、けっしてこのままその汚れを培って、不治の病根としてしまってはならぬ、と。》

要するに前王ライオスを殺害した犯人が国内にまだのうのうと居続けているというのが国土荒廃の原因なので排除せよということである。

何も知らないオイディプスは犯人を捕らえて罰する命令を下す。

ここまでがプロロゴス(プロローグ)であり、このあとエペイソディオン(エピソード)が3幕とエクソドスが続く。合唱隊が二組あり交互に合唱する。その旋律は不明である。

全体の構造としては、死刑判決を最初に出したが、出した本人が被告だったというシュールなものになっており、ギリシャ古典劇もなかなか前衛的である。