NHK BS ロシア 小さき人々の記録 (3)

  ウクライナとの国境からウクライナ側20kmの所にチェルノブイリ原発がある。原発から半径30kmはゾーンと呼ばれ立ち入り禁止になっている。そこには年に一回住民たちが立ち入ることが許されている。住民たちは墓参りをする。このゾーンにも住んでいる幾人かの老人がいる。被爆を覚悟で人生の最後をここで迎えたいと考える人々である。リュドミラ・イグナチェンコの夫は消防士で事故後現場に駆けつけて消火活動に当たったという。その夜夫は帰って来ず翌朝7時に夫が入院していると連絡がある。リュドミラが面会に行くと夫に近づく事は許されずその夜にモスクワの病院に夫は移された。妊娠初期のリュドミラはモスクワで夫に付き添う。夫は胃がダメになり食事を受け付けなくなる。一日一日と夫は姿を変えていった。最後は口から内臓がぼろぼろと出てきたという。夫が死ぬと亜鉛の棺に入れられ埋葬された。その後出産した娘は高線量被曝のため産まれてすぐ死亡した。 


  リュドミラはその後キエフ市郊外のアパートに移住した。今は祖父と二人暮らしである。アレクシェービッチは祖父にインタビューする。リュドミラが看病したのは間違いだったと祖父は言う。確かに看病しなければ死産を免れたかもしれないがこれがロシアの女性である。リュドミラは再婚し男の子を一人出産した。その後夫とは離婚、リュドミラは脳卒中で療養する。アレクシェービッチはポプラブニキに住むリュドミラの息子に会いに行く。彼は心臓と肝臓に欠陥があるという。アレクシェービッチが色々質問するが素直に答えてくれた。
  ワシーリイ・メステレンコ博士が200km圏の土地の汚染地図を提示し語る。広島型原爆の350個分の放射能が降り注いだという。博士は土地の汚染状況と子供達の被曝状況を測定し続けている。子供達は許容量のおおよそ5倍の被爆を受けているという。博士は測定のたびに子供らに気をつける事を注意して聞かせる。政府が動かない状況では博士はただ事実のみを記録するだけだと言う。博士は高度に被爆した少女の家庭を訪れる。一家は農家の下働きで生計を立てており食料を買うお金がなく飼っている牛の乳で暮らしているという。
  チェチェンとの紛争が長引く中サンクトペテルブルクでは戦争に反対する運動が起こっている。兵士の母の会を取材する。アレクシェービッチは国民の意識が変わってきたと言う。兵士の母の会は上官による暴力により脱走した青年を支援する。精神科の診断書を持ち軍の検事局に兵役免除を申請する。青年は入隊免除になり病院行きとなるらしい。
  ある少年兵は恋人の助けを得て軍から脱走した。二人は何食わぬ顔で門から出て草原を駆け抜け林の中で一夜を過ごし兵士の母の会に駆け込んだ。アレクシェービッチは恋人のリンマ・シフツォーワを取材する。アレクシェービッチは彼女の個人主義的傾向を指摘する。アレクシェービッチは変わりつつあるロシアの人々の事を本にしようと考えている。

  以上がこのドキュメンタリーの要約である。どこまでも真実を追求してゆき文章で豊かに表現するアレクシェービッチの活躍は素晴らしい。だがいかに彼女が良い仕事をしても深い闇を根に有しているロシアの人々が住む国がアメリカのような国に変貌する事は永遠にないと思う。