失われた時を求めて (133)

この小説が三幕物のオペラであるとすると、第1幕がプルースト少年の冒険、第2幕がパリでの隠遁生活と第一次世界大戦、第3幕がゲルマント大公邸でのパーティーという風に構成できると思う。そして第14巻はこのゲルマント大公邸でのパーティーの様子が書かれているらしい。会場に向かう途中プルーストはある啓示を得て文学に邁進する勢いである。どれだけ時間が経っていたのか会場を見回すとプルーストは浦島太郎の心境になる。

会場の人物の容貌の変化にいちいち驚く描写はうざくなるのだが、プルーストの毒舌ぶりが発揮されている箇所を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《私の想い出には氏の気取りやしゃちほこばったぎこちなさが浮かぶのに対して、現在の氏はなんの尊厳も呼び醒まさぬ乞食のようになり果て、しかもその耄碌爺の役はまさに真に迫るものがあり、手足はぶるぶる震え、いつも尊大であった顔の目鼻立ちも今やたるんで、間の抜けた恍惚のていでたえず微笑んでいる。》

プルーストは小説の発表後モデルとなった人物から次々と絶交されたというエピソードがある。