いよいよゲルマント大公妃の晩餐会に出席する。以下引用文。(吉川一義訳)
《私は、先に到着した数人の招待客の列の後ろに並んでいた。私の真向かいに見えた大公妃の美貌は、並みいる貴婦人たちのなかで、たしかにパーティーの唯一の想い出となるほど抜きん出たものではなかった。しかし女主人としての顔には、非の打ちどころがなく、きわめて立派に彫られた顔の趣があって、私の脳裏にはこの夜会の記念になるほどの印象を残した。》
若僧のプルーストがだんだんとシャルリュス氏のように変貌して行くのがこの小説だろうと踏んではいる。もうすでにプルーストの言辞には相手への辛辣な評価とその後に続く申し訳のような付け足しがセットになっている。
この晩餐会の位置付けを示している興味深い記述がある。以下引用文。(吉川一義訳)
《ところが社交界の婦人は、何もすることがなく、「フィガロ」紙に「昨日、ゲルマント大公夫妻は盛大な夜会を開催した、云々」という記事がでているのを見ると、思わず、「なんてこと!三日前にマリー=ジルベールと一時間もおしゃべりをしたのに、あの人、なにも言わなかったわ!」と声をあげ、いったいどんなことでゲルマント大公夫妻の機嫌を損ねたのかと頭を悩ます。》