本書は斎藤月岑が著した江戸の歳時記である。東洋文庫には同じ著者で 『増訂 武江年表 (1848)』もある。本文を少し紹介する。
《元日
◯御一門方譜代御大名衆御禮(装束にて卯半刻出仕)諸御役人方御禮登城。
◯諸家年禮 商家にては二日より出る。元日は戸を開かず。
◯今朝若水を汲む、今日より三日迄貴賎雑煮餅を食し、大服をのみ屠蘇酒をすゝむ、屋中年徳柵を儲く、今日より六日迄を松の内といふ。(略)
二日
◯國主城主(装束)諸役人方御禮登城 五ッ時江戸御用達の町人御禮。
◯船乗初。
◯商家には、今日貸桟をひらき、售を肇め、年禮に出る故に市中賑ひて酔人街に多し。
◯亀戸天満宮裏白連歌會 八句の連歌を懐紙に書て奉る。懐紙表ばかりなれば、裏じろといふ。北野の例なり。
◯吉原遊女年禮 今日より茶屋々々へ年禮にとて、仲の町へ出る。家々嘉例により、仕着小袖を調へ、禿に至るまで、一様の新衣を着して往来す。これを里諺に道中といふ。(略)》
《五日
◯浅草寺三社権現法樂(巳刻三問一答、衆徒六人弟子三人是を勤む)。流鏑馬あり。牛刻社人本社に至り、祝詞・神樂を奏し、後麻上下を着したる者、片面に鬼といふ文字を書きし的を竹の先へ付けたるを持て、鬼の前駈す。鬼に出立たる者、是に添ひて出る。社人騎馬にて鬼を追ひ、本堂を廻りて其年の恵方より始め、天地四方へ矢六筋を放つ。諸人此矢を拾ひて守とす。但し、弓矢は眞の物にあらず、假初につくりし物なり。(略)》
《七日
◯若菜(人日)御祝儀諸侯御登城。今朝貴賎七種菜粥を食す。
◯亀戸天満宮 若菜餅の神供、御食に若菜をそへて奉る。十五日には粥を献る。
◯王子権現牛王加持 牛王寶印をもて坊中の頭に押事あり、禰宜等是を勤む。》
《十一日
◯御具足の餅御鏡開諸家同じ 昔は廿日を用られしなり。廿日と刃柄と訓同じ。刃柄を祝ふといふ俗説なり。國忌なるによりて、慶安五年(承徳と改元)正月より改られしよし『羅山文集』に見えたり。 (略)》
長くなるのでこのくらいにするが、結構堪能できた気がする。