東洋文庫 お経様 〜民衆宗教の聖典・如来教 (1804〜1812)

本書は如来教の教祖一尊如来きの(1758〜1826)の説教を記録したもので、如来教の経典である。本書の解説文によると、きのの前半生は武家に女中奉公に出て真面目に勤め上げたというものである。きのはその礼金と蓄えを元に実家を買い戻し、農業を始めている。きの40歳のときである。以下引用文。

《1802(享和二)年8月11日、47歳のきのは、とつぜん神がかりに陥った。きのは、じぶんの体に金比羅大権現が天降ったとして、金比羅を使者として地上に遣わした、天地を創造し主宰する「如来」の教えを説き始めた。(略)きのが、自宅を「御本元」として、ひたすら如来に仕える生活に入ると、病気なおしをはじめさまざまな現世利益をもとめて、御本元に足を運ぶ人びとがにわかに増えた。信者が集まると、束帯を身につけたきのは、金比羅のことばを、時には、秋葉大権現、入海大権現、熊野大権現等の神々や、日蓮親鸞ら祖師のことばを、神がかりとして延々と説くようになった。(略)きのは、もともと無学文盲の一介の農村婦人であったから、のちのちまで、キツネつき、タヌキつき、飯綱使いの類として、その教えを嘲笑し、悪罵する者が絶えなかった。しかし時とともに、その教えに心服し。きのを生き神として仰ぐ信者が、尾張一円はもとより、かなり遠方からも、つぎつぎに現れるようになった。》

御説教目録の第一から「二五〇 御済度御物語の事」の一部を紹介する。以下引用文。

《日本に、替なき利益、お釈迦様思召に、「末法の世に相成し事成れば、諸人の心も、邪見と成、仏法の事も薄く成。此方に成代り法を弘めよ」とお頼み有ゆへ、此度は金比羅、御名代に此女に乗移る事成ば、世に替なき利益御名代の事成ば、則ちお釈迦様と心得て、皆々信心被致よ。お釈迦様御直の節と此度と、たった二度の事でやぞよ。其外此世界有ふずる中、ない事でや。心を改て、心悩をとられよ。 是一度は死ねば成ぬ。夫、死んでそこへ行。其行所を教るのじゃ。是「能事をすれば極楽へ行。悪事すりや地獄へ行。」なぞと言ても、其地獄極楽、見て来たもの一人もなし。其証拠の為に、病気を治し取する。信心する人皆助取する。其手形に病気を治し取する。(以下略)》

尚、「二四九 神仏初て御乗移りの事」は非公開なのか本書には収録されていない。