フォークナー 八月の光 (1)

いよいよフォークナーの小説を読む。新潮文庫版である。

P43までは4週間にわたるリーナの旅である。アラバマから架空の町ジェファーソンまで歩きと馬車で踏破する。途中親切な一家に泊めてもらい路銀まで貰っている。誰もが他人を信用していない世界で、頼りになるのは観相学である。リーナはどう見られているか。

《アームステッドとウインタボトムはウインタボトムの厩舎の涼しい影にしゃがみこんでいて、彼女が道路を通りすぎてゆくのを見た。女が若くて、みごもっていて、他所者だ、と二人ともすぐに見てとった。「あの女、どこであんな腹になったのかな」とウインタボトムが言った。

「あの腹をかかえて、どれぐらい遠くから歩いてきよったのかな」とアームステッドが言った。

「この道の先にいる誰かを訪ねてきたんだろうよ」とウインタボトムが言った。

「そうじゃなかろう。そうならもう俺の耳に話が入っているはずさ。それにここから先は俺の家まで、ほかに一軒も家はねえよ。その先のほうのことだって俺の耳に入らあな」》

リーナは教育も受けず兄の家に住み込んで働いていた。そのうちに妊娠して男のいる町に単身向かう。まあ家出である。

難解な文章が出てきたので味わってみよう。

《いまリーナは、そんな姿でほぼ四週間の旅を過ごしてきた。その背後の四週間ーー平穏な長い廊下のようになり、その床は揺るがぬ平静な信念で固められ、左右は親切な名もない顔で飾られて、そこにはいくつもの声が残っている ルーカス・バーチ?知らんね。このあたりにはそんな名のものしらんね。この道かい?これはボカホンタスへゆくのさ。その人はそこにいるかもしれんね。あるいはな。この馬車はそっちのほうへちっとばかり行くよ。まあ乗ってゆきなよ 彼女の背後に伸びているものは昼から夜へ、夜から昼へと単調に移り変わる長くて平穏な相も変わらぬ道で、その中を彼女は誰のものとも知らぬ同じようなのろい馬車に幾度も乗せてもらっては進んできたのであり、それらはまるで車輪を軋らせて耳を垂らして行く魔物の行列のなかを通るかのようであり、大きな壺のまわりを永久にはかどりもせず進む何かのようであった。》