フォークナー 八月の光 (3)

バイロン・バンチは30過ぎの男で七年前から製板工場で働いている。そこにある日、バーデン屋敷の火事のあった日、リーナが訪ねてきて会話をした。リーナはすぐにこの男ではないと悟ったが、バイロンはリーナの探している男がクリスマスの相棒のブラウンだとわかってしまっていた。

ゲイル・ハイタワーという町の牧師のエピソードが語られる。一種のスキャンダルである。牧師の妻が不倫の果てに自殺する。また彼の説教は独特で、南北戦争の祖父の戦闘と、聖書の言葉とが入り交じった熱気のあるものだった。聴衆はだんだんと拒否反応を示すようになったのである。ついにハイタワーは教会をクビになり町から出て行くよう言われたが、自宅に美術教授の看板を立てて居座ったのである。

バイロン・バンチはリーナをすぐにはブラウンに会わせようとしなかった。ブラウンが酒の密売人であることは村人の誰もが知っていたし、大事件がその当日起こっていたからである。

ブラウンの登場時における観相学的所見がある。

《さて六ヶ月前のある日、別の見知らぬ男が、クリスマスのしたように、仕事を求め工場に現れた。彼も若くて、背が高く、すでに仕事服を着ていたが、それはもうかなりの間いつも着っぱなしという傷み方であり、それにその男自身もまるでごく身軽に旅をしてきたように見えた。顔は、口の端に小さな白い傷があるが、敏感で女っぽく整っていて、いかにも鏡を始終眺めこんでいる顔つきであり、それに、バイロンは思ったのだが、彼が肩ごしに後ろを見やるときの頭の振り方は、道路で自動車の前に出た騾馬がするのとそっくりだった。》

《この新入りはおが屑山のところでクリスマスとともに働きはじめた。身振りだくさんに誰にでも話しかけ、自分は誰でありどこにいたとか打明け話をしたが、その口調と態度はその人間自体の本質を見せているともいえて、そこには厚かましさと虚偽がこもっていた。だから皆は彼がどこから来たかの話ばかりか彼が言った名前さえ本当だとは信じないのだ、とバイロンは思った。この男の名がブラウンであるはずはないという理由などどこにもなかった。ただ、彼を見ていると、誰もがこう思いたくなるーーこの男は過去に何か馬鹿なことをしでかして名を変えねばならなくなったのだ、そこでこの平凡な名を、今まで誰も思いつかなかったかのように大得意な気持ちで自分にくっつけたのだ、と。》

虚言癖の人物を見抜く目をバイロンという男は持っている。