岩波文庫 アンティゴネ (前5世紀)

オイディプスの死後、戦争が始まって二人の息子が相討ちになって死んだ。新しく王になったのはあのクレオンである。物語の発端はクレオンの出した命令である。攻めてきた方の息子のポリュネイケスの死体を埋葬せずに道端に放置し、これを埋葬したものは死刑にするというものだ。親族として平穏に暮らしていたアンティゴネはこの仕打ちに激怒し、自分は死刑になっても兄を埋葬すると言い出したのだ。

人と人がこのようにぶつかり合うのは仕方がないにしても、調停や裁判のような第3者が入れば落とし所が何とか出てくるのだが、今回は両者とも一歩も譲らなかった。アンティゴネは刑場に引かれて行くがこの時の哀歌の調べが美しいので紹介する。

アンティゴネ : 見ておくれ、祖国の人たち、

最後の道を歩み行く私を。

これを限りの、

最後の陽の光を

仰ぐ私を。人みなを眠らせる

冥界の神が、生きながら私を

アケローンへの岸へと

連れて行く。婚礼の歌に

見送られもせず、花嫁の

部屋に、言祝の歌も響かず、

アケローンに嫁ぎゆく。

(略)

父祖の神々にかけて訊く、

まだ死んでもいない、目の前にいる私に、

なぜ酷いことを言うのです。

ああ町よ、町の

分限者のそなたたち、

ディルケーの源よ、

兵車を誇るテーバイの聖域よ、

せめてそなたらに見届けてほしい。

親しい人たちの哀悼も受けず、いかなる掟ゆえか、

世にも珍しい墓の、築き成したる

石組へと、私は向かう。

何と不仕合せな。

この世の人ともあの世の人とも隔てられて。》

霊能者テイレシアースも出てきてアンティゴネ側につくが、クレオンが翻意した時はもう遅かった。神の怒りの仕業か、関係者が3名あの世に行ってしまったのである。

これはソポクレスのオイディプス三部作のなかでも格調の高い作品である。もし上演するなら格調の高い演出で観たいものである。無ければやっぱり岩波文庫のテキストから想像するしかない。