東洋文庫

東洋文庫 中国古代の祭礼と歌謡 M.グラネー (1919)

フランス支那学の大家 M.グラネー による大著かつ学位請求論文が本書である。歌謡というのは詩経に収録されている恋愛歌の事で、祭礼とは四つの地方の祭礼について幾つかの文献を元に著述したものである。新進気鋭の学者だけあって緒論では旧来の欧米の研究…

東洋文庫 稿本 自然真営道 (1755)

江戸時代の医師、思想家である安藤昌益が記した書で思想のような医学のような内容がすっきり頭に入ってこない事が書かれている。刊本は三巻であるが出版されなかった稿本は百一巻もあり、再発見分九十二巻は東京大空襲で焼失した。現存しているのは十五巻で…

東洋文庫 中国思想のフランス西漸 (1933)

本書は仏文学研究者である後藤末雄博士がフランスにおける中国研究の歴史についてフランスの文献に当たって取りまとめたものである。そうすると必然的にフランス文テキストに於いて言及された中国の文献にも当たる必要がある。幸い東洋文庫にその多くが所蔵…

東洋文庫 三宝絵 (984)

源為憲(不明〜1011)の著した三巻よりなる仏教説話集である。当時付属していた絵は現存していない。 上巻は見たところインドの古い説話集となっている。話が大袈裟なところがあるし見るべきところは少ない。 中巻には国内の話題が収められている。特に上宮…

東洋文庫 明夷待訪録 (1663)

著者である黄宗羲は明が滅びた時の遺臣であり大学者である。清朝政府が政治を行う様になると郷里に帰り日夜読書に努め書物を執筆し教育を行なった。明夷待訪録はたとえ暗君が君臨する世の中でもいずれは明君が現れ自分に教えを請いにくる事を期して記した政…

東洋文庫 東韃地方紀行 (1811)

本書は1808〜1809年に間宮林蔵が現地人とともに樺太、黒龍江流域を調査・探検した時の口述記録である。 冒頭の部分と途中を抜粋して紹介する。 文化五辰年の秋、再び間宮林蔵一人をして、北蝦夷の奥地に至る事を命ぜられければ、其の年の七月十三日、本蝦夷…

東洋文庫 庭訓往来 (14世紀)

これは古くから手習いの教科書として重用された庭訓往来の注釈本である。庭訓往来の成立は14世紀後半とされる。往来とは初級向けの教科書のことで11世紀から普及し始め近世からは爆発的に普及し寺子屋でも教えられたという。内容の一部を仮名交じり文で紹介…

東洋文庫 京都民俗誌 (1933)

本書は京都府立第二中学校歴史科の井上頼寿氏が調べ上げた洛中、洛外の風俗、地誌であり大変貴重な資料である。気になったところを抜き書きして示す。 お産 (略)左京区大原では、藁三百六十五把を縦にくくり、円筒形にして背後に置いてもたれる。正座して…

東洋文庫 続日本紀 (797)

文武元年(697年)8月17日文武天皇が即位しその時の詔 現つ御神として大八嶋国をお治めになる天皇の大命として仰せになる大命を、ここに集まっている皇子たち、王たち、百官の人たち、および天下の公民は皆承れと申しわたす。 高天原にはじまり、遠い先祖の…

東洋文庫 源頼朝 山路愛山 (1906)

市井の歴史著述家である山路愛山の「時代代表 日本英雄伝」のうちの第五巻に当たるのが本書である。この企画は日本全史を10人の人物を中心として書こうとするもので、本書では平将門の乱(939)から奥州征伐(1189)までを一気に読むことができる。文章の一…

東洋文庫 韃靼漂流記 (1647頃)

越前国坂井郡三国浦新保村の商人竹内藤右衛門らの松前貿易の船三隻が三国浦を出たのが寛永21年(1644年)4月1日のことである。佐渡島を出発したところ、5月10日からの暴風で船は流され人のいない山ばかりの処へ漂着した。小舟でやってきた現地人らと言葉が通…

東洋文庫 中国・朝鮮論 吉野作造 (1904〜1932)

本書は雑誌などに発表された吉野作造の論文集である。吉野作造は袁世凱の子息の家庭教師を勤めた経歴があり清国の内情につとに詳しいところがある。 再び支那人の形式主義(1906) (略) 例えば、直隷袁世凱氏は比較的廉潔公正にして、鋭意進歩改善の功を奏…

東洋文庫 清俗紀聞 1(1799)

本書は長崎奉行中川忠英が部下に命じて長崎に来ている清国商人から聞き取り調査を行なわせ、当時の清の文物、風俗を絵図と短い文章でしるしたものである。幕吏である近藤重蔵らと長崎唐通事を動員して行なわれた。同じく東洋文庫の清嘉録(1830)とは内容と…

東洋文庫 マテオ・リッチ伝 (1969)

著者の平川祐弘氏は東大教養学部出身の比較文化学者で主に西洋の文献を元にしてこの書を著したと思われる。ここでは全3巻のうち第1巻の要約を記す。 マテオ・リッチは1552年イタリアのマルケ地方に生まれた。巨匠ラファエロ、サン・ピエトロ寺院の設計者ブ…

東洋文庫 塩鉄論 (紀元前1世紀)その2

この部分が聞き覚えのある感じがするので書き留めておく。 御史大夫「書物をひろげ読みおぼえて、死人のことばを口ずさむような文学とは、私たち役人は異なります。文学は牢獄が法廷のうしろにあるのを知っているが、実際の事件を知らないし実際の事件を聞い…

東洋文庫 塩鉄論 (紀元前1世紀)

本書は前漢の昭帝の治世に政府側代表と知識人とで行なわれた議論を著者の桓寛がまとめたものである。冒頭の部分を抜粋する。 文学「(略)ところが今日、郡国で塩・鉄・酒の専売、均輸の制度が行われ、人民と利益を争っているので、人情に厚い素朴な気風が失…

東洋文庫 貞丈雑記1 (18世紀後半)

本書は伊勢貞丈が生涯にわたって著した武家の故実便覧といったものである。伊勢家は小笠原流の二家と並ぶ武家故実家で旗本であり、武家儀礼の下問に答える家柄である。全16巻よりなり貞丈雑記1には1〜4巻が収録されている。以下抜粋。 巻の一 礼法の部 一【…

東洋文庫 ゾロアスター教論考 (エミール・バンヴェニスト1926、ゲラルド・ニョリ1985)

本書はコレージュ・ド・フランスでの二つの講義録の日本語訳である。 第一部 『主要なギリシャ語文献に見るペルシア人の宗教』はエミール・バンヴェニストによる1926年の講義で以下の四章からなっている。 第一章 資料全般ーゾロアスターの神話的年代 ギリシ…

東洋文庫 古書通例 (1985)

著者の余嘉錫は1884年湖南省常徳に生まれる。科挙に合格し、北京大学で教鞭をとった後カトリック系の輔仁大学の教授になった人である。この本は副題に中国文献学入門とある様に実際に文献に当たる時の心得や落とし穴について詳述したものである。以下は本文…

東洋文庫 日東壮遊歌 金仁謙(1764)

第11次朝鮮通信使節に書記として随行した金仁謙による随行記で全文ハングルで書かれているのが特徴である。 (1763年9月9日)英祖39年8月3日ソウルを出発。総勢484名、その内、両班は52名である。著者は57歳と高齢ながら宴会を楽しんだり妓生好きの兵房軍官…

東洋文庫 明治日本体験記 (1876)

本書はグリフィス著 「皇国(1876)」の序文と第二部の日本語訳である。 グリフィスは1870年(明治3年)に福井藩のお雇い外国人教師として横浜にやってくる。 横浜の情景 静かな古来の富士から目を移すと日本在住の外国人のにぎやかで新しい町が、日の光をい…

東洋文庫 七王妃物語 ニザーミー(1200)

著者のニザーミー(1140〜1203諸説あり)はガンジャ(今のキロヴァバード、カスピ海の西)出身で生涯をそこで過ごした。「四つの講話」を書いたサマルカンド出身のニザーミーとは別人である。三人の妻と一人の息子がいる。ニザーミーはあらゆる学問に通じ膨…

東洋文庫 朝鮮小説史 (1939)

著者の金台俊は京城帝国大学朝鮮語学科を卒業、後に地下活動に参加し延安に脱出した。朝鮮独立後は反米闘争を行い李承晩政権によって処刑されている。 上古時代においては文学と言えるものは存在しない。三国時代に書かれたとされる金大問「鶏林雑編」、「花…

東洋文庫 ハーフィズ詩集 (14世紀)

ペルシャ文学における最高の詩人は民族英雄叙事詩ではフィルドスウィー、四行詩ではオマル・ハイヤーム、頌詩ではアンヴァリー、ロマンス叙事詩ではニザーミー、神秘主義詩はルーミー、実践道徳詩はサアーディー、抒情詩はハーフィズと言われている。今回紹…

東洋文庫 則天武后 郭沫若 (1962)

郭沫若の書いた全4幕ものの史劇である。通説とは真逆を行くもののようである。以下概要を記す。 すでに権力を手にしていた則天武后は病弱な夫である高宗と第二子である太子賢と洛陽の宮殿に住んでいた。門閥を排し人材を登用し民衆の声を聞く政治を行ってい…

東洋文庫 ペルシア逸話集 (11、12世紀)

本書はペルシア逸話集と題されているが「カーブースの書」と「四つの講話」からなっている。 カーブースの書 これはカスピ海南岸地域に成立したズィーヤール朝(927〜1090頃)第7代王カイ・カーウースが息子ギーラーン・シャーのために著わした教訓の書であ…

東洋文庫 パンソリ 申在孝 (1870年ごろ)

本書は民衆の芸能であるパンソリを 申在孝が脚色、筆録したものの日本語訳である。四つの演目が収録されているが冒頭にある「春香歌」の内容はこんなものである。 湖南左道の南原府に妓生の娘として生を受けた春香は絶世の美女であった。府使の令息である若…

東洋文庫 薔薇園 サアディー 著 (1258)

この書はシラーズ出身の天才詩人サアディーが書いた散文と詩による道徳の教えである。読んで行くと商売上手なアラブ人の事を敵視しているのが窺える。 第3章 物語15 私はある砂漠のアラブ人がバスラの宝石商らの仲間に加わり、こう語っているのを見た。「砂…

東洋文庫 法顕伝(4世紀)・宋雲行紀(6世紀)

東晋時代の僧である法顕は399年慧景、道整、彗応、慧嵬らとともに長安を旅立った。天竺に律蔵を求める旅である。隴山を越え、乾帰国で夏坐(3ヶ月の坐禅)しさらに進み張掖鎮に至る。そこでも夏坐し敦煌に至る。ここには大きな防御設備(辺塞)がある。一と…

東洋文庫 木葉衣 他 行智 (1800年ごろ)

これは修験道の教本であり、著者の行智は修験道の開祖である役小角(えんのおづぬ)について『続日本紀』『扶桑略記』『日本霊異記』を引用して述べている。なかなかの博識と言えるだろう。修験道は葛城山の山道の往還から始まった。『古事記』『日本記』『…