失われた時を求めて (48)

(ヴィルパリジ侯爵夫人邸での茶会の続き。)ドレフュス事件についてノルポワ氏がこう語る。以下引用文。(吉川一義訳)

《「かりに有罪の判決が出たとしても」と氏は言う、「おそらく破棄されるでしょう。と申しますのも、証人の供述がこれほど多い訴訟では、弁護士側から形式的瑕疵を申し立てないことなどめったにないからです。アンリ・ドルレアン大公乱入の一件に決着をつけるなら、私には、そんな反対の仕方が父上の趣味に合ったものではとうてい思えません。」 「シャルトルがドレフュス派だとおっしゃるの?」と訊ねた公爵夫人は、微笑みをうかべ、目をまるくし、頬をバラ色に染め、おのがプチ・フールの皿に顔を寄せたまま、憤慨の面持ちである。》

この後ブロックがサガン大公妃主催の舞踏会への招待状を所望すると、ヴィルパリジ夫人はこれを無視する。ブロックはサガン大公妃への皮肉やら悪態を発し、さらにノルポワ氏への質問を連発すると、周囲の空気が一変し、こいつは好ましからざる人物だという事で、ヴィルパリジ夫人により二度とこないよう退去させられたのである。

プルーストは傍観者だが、この時ブロックがユダヤ人であるということが暗黙のうちにフランス人には了解され、ベルギー人のアルジャンクール伯爵にはそっと耳打ちされたのをプルーストは見逃しはしなかった。