失われた時を求めて (119)

ヴェルデュラン夫妻のサロンの隆盛について語るプルーストだが、今は政治がらみの話題が増えてきたのだという。それに婦人のファッションも戦時色が濃くなって地味なものになったという。具体的な様子がわかる文章を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《言い忘れていたが、ヴェルデュラン家の「サロン」は、その精神においても実態においても変わらず存続していたが、場所だけは一時的にパリの最高級ホテルのひとつへ移転していた。石炭と照明が不足して、ヴェネツィア大使たちが使っていた湿気の多い古い住まいでヴェルデュラン夫妻がレセプションを開催するのがだんだん困難になってきたからである。》

次の描写は映画レッド・バロンに出てくるリヒトホーフェンが活躍した時代を垣間見させてくれる。以下引用文。(吉川一義訳)

《たとえば遠くから山を見ると、それを雲かと思うことがある。しかしその雲がじつは巨大で堅固なかたまりで、頑丈なものだとわかると、人は心を動かされる。それと同じで私は、夏の空にうかぶ褐色の斑点が、羽虫でも小鳥でもなく、パリを哨戒する男たちの乗りこんだ飛行機だということに感動した。》

この二ヶ月ばかりのパリ滞在中プルーストはブロックとサン=ルーに会っただけであるという。