インドネシア共和国にはジョグジャカルタ特別州があり、スルタンであるハメンクブウォノ10世が王宮に住み、世襲制の特別州知事として執務を行なっている。これがどういったものかをNHK取材班がレポートする。
246年の歴史を持つジョグジャカルタの町中を衛兵の軍楽隊が王宮に向かって練り歩く。王宮の奥深く金色の宮殿の玉座にはスルタンが座っている。祭りの日の夕刻には民衆が王宮に向かって集まって行く。するとスルタンが現れコインを撒く。背景ではガムランが静かに鳴っている。貴重なスルタンのインタビュー映像がある。スルタンは語る。「ジョグジャカルタでは王と民がとても近い関係にあります。私たちは権力ではなく、心で結ばれているのです。私には王として人々に将来への希望を与える義務があります。そして人々も私に気兼ねなく願いを伝えてきます。ジョグジャカルタは王と民が支えあいながら歴史を築いてきた町なのです。」
ジョグジャカルタの市場の様子が映し出される。物資の豊富な、よくあるアジアの市場である。鐘が打ち鳴らされアブディダルムが王宮に入って行く。アブディダルムとは1600人にも及ぶ家臣団で、町中に住み、空いた時間に王宮に出仕し伝統文化を守っている。お茶を運ぶ係、時計を合わせる係、調理場から宮殿まで昼食を運ぶ係の映像とインタビューが映し出される。祭りの最終日には六つの神輿が奉納される。とても変わった神輿である。この神輿の制作現場の映像が映し出される。
家臣団はコウモリと鳥を捕まえて売るなど、何かしら本業を持っている。王宮からわずかだが給料も出る。
活火山メラピ山の麓に建てられた宮殿の全貌がCGで映し出される。創建当時はオランダによる植民地支配が進んでいた。ジョグジャカルタは何度かオランダ軍と日本軍による支配を受けたが、最後は独立戦争の拠点として機能したのである。ハメンクブウォノ9世がオランダ軍の攻撃に体を張って向かって行ったという。
スルタンの知事としての活動が示される。この日は農村を視察し、作物の生育状況を聞き、意見を交換した。知事は水について責任を持つと述べた。
貧困層が住むカンポンの取材をする。ここでは仕事のない人が多いと言うが子供達はよい身なりをしている。路上でヤシの実のジュースを飲んでいる。住民のポニマンさんに密着する。ポニマンさんは王宮に仕えながら人力タクシーの運転手をしている。王宮ではまだ見習いである。腰にさす短剣が上級家臣の証であるという。ポニマンさんはこの短剣を腰にさす事を夢見ている。
家臣団がメラピ山にお供え物を運ぶ。お供え物といってもスルタンの髪の毛や爪である。お供え物はインド洋にも撒かれるという。宮殿では宴が開かれる。政府要人、文化人3000人が招かれ、絢爛豪華な舞踊が演じられる。
最後にスルタンが語る。「今インドネシアの社会は暴力が蔓延し、治安は悪化し、極めて深刻な状況に陥っています。これはまさに文明の危機です。私はこのことをとても恐ろしく嘆かわしいことだと思っています。ですから今こそ私には人々を守り、救い、幸せにする義務があります。人々が将来に希望を持てるようにしてあげること、それが王としての使命なのです。」
これがまあ、表向きのジョグジャカルタだろう。それにしても非常に充実したドキュメンタリー=映像記録である。