第二巻は打って変わって、ホームドラマのような内容なのでどんどん読めてしまう。パリのこじんまりとしたサロンでの人間同士のやりとりが続く。勿論主人公はスワンである。後にスワンの妻となるオデットとの交際が描かれる。以下引用文。(吉川一義訳)
《オデットはスワンのために「お得意の」紅茶をいれると、「レモン、それともクリーム?」と訊ねる。スワンが「クリーム」と答えると、笑いながら「ほんのちょっぴりでしょ!と言う。そしてスワンがおいしいと言うと、「ほら、あたし、あなたの好みがわかっているでしょ。」と答える。」》
このサロンではヴァントゥイユ作曲「ピアノとバイオリンのためのソナタ嬰ヘ長調」が演奏される。ヴァントゥイユは架空の作曲家らしい。
スワンとオデットの関係はやや複雑である。以下引用文。
《たしかにスワンは、どうみてもオデットがすばらしい女とはいえないとしばしば考えていたし、自分より劣る相手を意のままにしていることを「信者」たちの面前で公開されても、さほど嬉しくはなかった。ところがオデットが多くの男の目にはうっとりするほどの美人で、欲望をそそる女に見えると気づいてからは、男たちが感じるその肉体の魅惑ゆえに、オデットを心の隅々にいたるまで完全に支配したいという悲痛な欲求がスワンのうちに目覚めたのである。》
さらに大きな夜会ではフランス随一の貴婦人レ・ローム大公夫人が登場し、他の夫人との間で空中戦のような会話を繰り広げる。この夜会は音楽会でピアニストがリストやショパンの曲を演奏する。後半にはヴァントゥイユのソナタが演奏され、これを聴いたスワンはオデットとの思い出が蘇ってきて苦しむ。また5音からなる小楽節がもたらす甘美な効果について長々と考察する。
すでに二人の蜜月時代は過ぎ、スワンは嫉妬の妄想に苦しめられてゆく。いろいろな事実が明らかになり最後はとうとうオデットの事を見切ったようだ。
第三部は「土地の名ー名」と題されたエッセイである。幼いプルーストはルグランダン氏から聞かされたヨーロッパの果ての大地バルベックに憧れるようになり妄想を広げて行く。その一帯は岩盤と霧とゴシック様式の教会を特徴とする辺境である。実際ラニヨンの観光ポイントを調べるとそういったものが出てくる。父親との会話からヴェネツィアやフィレンツェに対しても妄想が膨らんで行くがこちらは暖色系のイメージである。またスタンダールの「パルムの僧院」を読んだプルーストはパルムにも憧れる。
高熱を出してヴェネツィアとフィレンツェの旅行に行けなかったプルーストは、休養のためフランソワーズに連れられてシャンゼリゼの公園で過ごすことになる。そこで出会ったのが赤毛の少女ジルベルトである。プルーストはこの少女と仲良くなり恋に落ちたようである。ちょっとわかりにくいが、彼女はコンブレーで見たあのジルベルトであり、スワンの娘である。