失われた時を求めて (68)

ヴェルデュラン夫人のサロン、スワン夫人であるオデットのサロンについて述べられる。スワン夫人のサロンは人気作家ベルゴットの存在で文学的な色彩を帯びたナショナリスト風のサロンと評価されている一方、一風変わった少数精鋭のヴェルデュラン夫人のサロンはドレフュス再審支持派の拠点となっていた。オデットのサロンの豪華絢爛な様子をプルーストは皮肉を込めて紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《(エピノワ夫人は)扉が開いたときその場に釘づけになった。想いこんでいたようなサロンではなく、まるで夢幻劇における早変わりの場面転換がおこなわれたかのように魔法の広間があらわれ、目を瞠らせる端役たちが長椅子になかば身を横たえたり肘掛け椅子に座ったりして女主人をファーストネームで呼んでいるなかに、エピノワ太公妃自身でさえとうてい自宅に呼べない妃殿下や公爵夫人たちが集い、オデットがやさしく見守るなか、いまやロー侯爵、ルイ・ド・テュレンヌ伯爵、ボルゲーズ大公、エストレ公爵といった面々が、そんな貴婦人たちのところへオレンジエードやプチ・フールを運んで、さながら王室のパン係やお酌役を務めていたからである。》

種明かしをすると、こう言う事である。

《ベルゴットは一日じゅう見世物のようにスワン夫人のサロンですごし、夫人は有力者には「あのかたにお話ししておきましょう、あなたのための文章を書いてくださいますよ」と言う。もっともベルゴットは、それができる状態にあり、スワン夫人のためにちょっとした一幕物さえ書いてやった。》