失われた時を求めて (27)

プルースト少年は気持ちが動転しているのかベルゴットとはあまり話さなかったようだ。その代わりスワンとベルゴットが直接対話する。これがどんな物になるのか興味深いが、会話を引用してみる。以下引用文。(吉川一義訳)

《「おっしゃておられるのは、あのカリアティードのことでしょうか」とスワンは訊ねた。

「いや、いや、それじゃないんです。激しい恋心をエノーヌに打ち明ける場面で、ケラメイコスの墓碑に刻まれたへゲソの手の身ぶりをするのをべつにして、ラ・ベルマが蘇らせるのはもっと古い芸術です。私がお話ししたのは、昔のエレクティオンのコレーたちのことでした。私としても、これほどラシーヌの芸術とほど遠いものはないのは認めますが、『フェードル』にはすでにそれほど多くのが詰まっているのです・・・・そのうえにひとつ・・・・いや、それに、そうそう、六世紀のかわいいフェードルは実に美しい。垂直にのびる腕といい、巻き毛の髪が「大理石に見える」のといい、いや、なんといっても、たいしたものです、これらをすべて見出したのは。今年「古代もの」と呼ばれてもてはやされている多くの書物より、ずっと多くの古代が満載されているのです。」》

ベルゴットが空疎な内容を自慢げに、言い訳がましく喋る様子を皮肉家のプルーストが描写しているのである。これが史実かどうかは分からないが。