失われた時を求めて (32)

青年貴族ロベール・ド・サン=ルーが颯爽と現れる。彼はヴィルパリジ夫人の甥である。初対面でのプルーストに対する彼の態度は冷淡そのものだったが、二度目からは愛想のいい思いやりのある青年に変身する。彼は軍人だが文学などの精神世界に興味をもち、ニーチェプルードンを研究している。だがしばらくするとプルーストは彼の付き合いの良さに辟易するようになる。

次にプルーストユダヤ人ブロックについて取り上げ、社交上のさまざまなルールを長々と述べたあと本音を語っている。以下引用文。(吉川一義訳)

《ブロックは不作法きわまりない神経質なスノッブで、しがない家庭で生まれ育ち、深海の底に棲息するみたいに自分にのしかかる計りしれない重圧に耐えていた。ブロックの上には水面のキリスト教徒たちだけでなく、ブロックのすぐ上層に折り重なるいくつものユダヤ人の階級がのしかかり、そのユダヤ人階級はそれぞれすぐ下位にある階層を軽蔑で押しつぶしていた。ユダヤ人の家庭をひとつずつ上へ上へと辿って自由な自由な空気を吸えるところまで出て行くには、ブロックには何千年もの歳月を必要としたに違いない。》

ブロックはプルーストに君はスノッブだねと面と向かって言ったかと思うと泣きながら謝ったり、サン=ルーにプルーストの悪口を吹き込むなどの悪行を行うのである。