フォークナー短編集 (7)

いよいよ問題作「乾燥の九月」のところに来た。読んで行くと、この辺りの記述が問題の核心部分であるだろうとわかる。

《理髪師は剃刀をかざして、旅商人の顔をおさえつけていた。「まず事件の真相をつかむのが第一ですよ、みなさん。わたしはウィル・メイズって男をよく知ってまさあ。やつがしたんじゃありませんよ。保安官を呼んで、ちゃんと裁いてもらおうじゃありませんか」

マクレンドンは怒りに燃えた、きびしい表情の顔を理髪師のほうにふり向けた。理髪師は顔をそむけなかった。ちょうど民族のちがう人間がにらみあっているようだった。ほかの理髪師たちも、仰向けになった自分たちの客の上で手を休めていた。マクレンドンがいったーー「きみは、白人の女のいうことよりも、黒人のことばのほうを信じるというんだな?このろくでなしの黒人びいきめがーー」

三番目の男が立ちあがって、マクレンドンの腕をつかんだ。彼もまた昔は兵隊だった。「おい、おい。この事件をよく調べてみようじゃないか。事件の真相について、なにか知ってる人間というのはだれなんだい?」

「調べてみるなんて、笑わせるない!」マクレンドンは、つかまれた腕をひきはなしていった。「おれについてくるものは、こっちへ出てくれ。ついてきたくねえもんはーー」彼は、袖口で顔をぬぐいながら、みんなをにらみまわした。》

この後すぐマクレンドンらは車に乗って、黒人が働いている工場に向かう。なんとか止めたい理容師もそれに同乗する。