失われた時を求めて (55)

ロベールは結局ラシェルとの仲を母親の試みによって終わらされ、今はモロッコのタンジールにいる。ラシェルはロベールとプルーストの仲を割くために自分はプルーストに襲われそうになったなどと嘘を吹き込む。それにより一時友情は壊れたが今はなんとなく元に戻っている。

アルベルチーヌは外見も知性も変貌を遂げており、バルベックの頃のアルベルチーヌではない。今なら接吻も拒否しないのではないかとプルーストは考え始めるが、まだ踏み切れないでいる。それでも我慢できず、ベッドの上でくすぐりごっこを始めようとした時、フランソワーズがランプを持って入ってきた。気まずい状況だが、フランソワーズのいつものやり方である。接吻はこの次にとっておくことにした。この時に述べられる女性に対する考察が秀逸である。以下引用文。(吉川一義訳)

《はじめて見かけたころのある女性は、海を背景に浮かびあがったアルベルチーヌと同じく、人生にあらわれた単なるイメージにすぎないが、そのあとわれわれは、このイメージだけ切り離して自分のそばに置き、あたかもステレオスコープのレンズを通して見るように、そのイメージの量感や色彩を少しづつ眺めることができるようになる。それゆえ、いささか気むずかしい女、すぐにはものにできない女、はたして自分のものになるのかただちには判らない女、そんな女だけが関心を惹くのだ。(略)最初に取持ち女のところで知った女たちが関心を惹かないのは、そうした女たちは変化しないからである。》