失われた時を求めて (62)

第八巻に入る。話は戻ってゲルマント夫人の帰宅を館の階段の物陰から見張っていた時プルーストが目撃したものは、シャルリュス氏と仕立て屋ジュピアンとのホモセクシュアルを思わせる仕草だった。この巻の主題であるソドムが姿を表して来た。プルーストは隣の貸店舗に忍び込み二人の行為を盗み聞きする。会話も盗み聞きする。シャルリュス氏はある頭のいいプチブルに目をつけており、手を焼いているのだとジュピアンに話すのである。プルーストには裏が全部わかってしまった。

このあと『性倒錯者総論』とでも呼べるような考察が延々と続く。ユダヤ人コロニーとの対比、サークル派と個別派、意識の芽生え、同族嫌悪と言ったテーマがとりとめもなく述べられる。例題と解説のような文章も現れて来る。以下引用文。(吉川一義訳)

《キャピュレット家とモンタギュー家との憎しみ合いなどは、おとなしく役所に出かけるつもりであった元チョッキの仕立屋が、太鼓腹の五十男と出会い、幻惑されてよろめくまでに乗り越えたありとあらゆる種類の障害や、愛をもたらす元来ごくまれな偶然にさらに自然が課した特殊な選抜に比べれば、ものの数にもはいらない。 》