プルーストは社交界自体の変貌、没落について持論を展開する。以下引用文。(吉川一義訳)
《それでも、時が流れ去り、私の過去のささやかな部分が消滅したという印象が強く感じられたのは、こうしたまとまりのある集団(ゲルマント家のサロンがそうであった)が破壊されたことが原因というよりも、ある人がいまもなおそこにいるのはごく当然でそれにふさわしい座を占めているのにたいして、そのすぐそばにいるべつの人は胡散くさい新顔であると判断できるだけの、無数の根拠や微妙な相違にかんする知識までが消滅したことがその原因である。このような無知は、社交界だけに見られたわけではなく、政治の世界にも、ほかのあらゆる世界にも見受けられた。個人の記憶は、その生涯ほどには長つづきしないからである。》
いまやプルーストはかつてのシャルリュス氏のような社交界の生き字引の風格がある。例えばこのように述べている。以下引用文。(吉川一義訳)
《タンソンヴィルがジルベルトのものになったのは父親のフォルシュヴィル氏から受け継いだからなのかと訊ねた人に、こう答えた者がいた。まったくそうではなく、タンソンヴィルとは夫サン=ルー一家の土地で、ゲルマントの隣接地でありマルサント夫人が所有していたが、多額の抵当にはいっていたのをジルベルトが持参金で買いとった、というのだ。最後になるが、社交界のある長老は、サガン夫妻や(略)》
こう答えた者は正解を言ったのだろうか。プルーストの言及がないので読者はどう解釈してよいのか戸惑う。