失われた時を求めて (66)

200ページを費やされたゲルマント大公夫妻主催の晩餐会の様子だが大邸宅の内部の描写がやっと出てくる。以下引用文。(吉川一義訳)

《私がゲルマント公爵夫人の館で晩餐をとった最初の夜、夫人がこの部屋について話してくれたことが原因なのかはわからないが、この遊戯室ないし喫煙室には、嵌め木を絵柄にした床をはじめ、三脚の椅子、人々をじっと見つめる神々や動物の像、椅子の肘掛けに横たわるスフィンクス、とりわけ、多かれ少なかれエトルリアやエジプトの芸術を模した象徴的模様で覆われた大理石や七宝モザイクの巨大なテーブルがあって、私はまるで本物の魔法の部屋にいる気分になった。》

庭にある噴水についても描写されている。

《噴水と同じほどに古い立木が何本もある立派な樹林に囲まれた空き地に、ぽつんと離れて植えられた観のある噴水は、遠くから見ると、すらりとして微動だにしない固体のように感じられ、そよ風に揺れるのは、はるかに軽く青白く震えて、羽根飾りのように垂れ下がる先端だけかと思える。(略)一本の線に見えるこの連続した水は、少し近寄ると、吹きあげのどの高さにおいても、砕けそうになると、その横に並行して吹きあげる水があらたに戦列に加わることによって保持されていることがわかる。(略)》

ゲルマント大公夫妻に客分としてもてなされたプルーストは当面の目標を達成した。ロベール、スワンともお話しし、シャルリュス氏の事も観察し、あとは帰ってアルベルチーヌと会うだけである。