まあプルーストはお金持ちなので、アルベルチーヌとお出かけのときに馬車ではなく自動車を手配したのである。アルベルチーヌはことの外喜んだが、プルーストも乗ってみて驚いた。以下引用文。(吉川一義訳)
《要するに、サン=ジャンには二十分ほどで行けるので、そうしたければそこに何時間いてもいいし、さらに遠くへ足をのばしてもいい、ケットオムからラ・ラスプリエールまでは三十五分もあれば充分だというのだ。私たちがそれを納得したのは、自動車が走り出して、駿馬でも二十歩はかかるところを一足飛びに踏破したときである。》
ヴェルデュラン夫人をアポなし訪問した二人は、別れ際に夫人を怒らせたようだが、水曜日には来るように言われる。車をどんどん走らせ ボーモン付近の景色を見たプルーストはまたもや独自の思索を繰り広げるのである。
《(略)ボーモンも、私がかけ離れたものと思いこんでいたさまざまな場所と不意に結びついてその神秘性を喪失し、この地方の中に然るべき位置を占めたのである。それゆえ私は、ボヴァリー夫人やサンセヴェリーナ夫人も、もし小説という閉ざされた雰囲気とは別のところで出会ったなら、他の人たちとなんら変わらぬ存在に見えたかもしれないと考えてぞっとした。》
プルーストの読書歴が窺える一文だが、これは牽強付会に近いものだろう。ボヴァリー夫人はともかくサンセヴェリーナ夫人もクレリア嬢も絶世の美女であり、どこで出会っても絶世の美女だと思う。