フォークナー短編集(2)

『エミリーにバラを』

ジェファーソンに伝わる奇譚と言っていいのか、まあこれはエミリー・グリアソンの簡潔すぎる評伝である。彼女の葬儀から書き始められているが、彼女の一生は外から見ると社会に出ず引きこもって歳をとって死んだだけのように見える。表通りに建つ立派な屋敷に住む令嬢であることから、周囲から好奇心をもって見られていたようで、父親の死後は黒人の使用人と細々と暮らしていた。

さて婚期が遅れているエミリー・グリアソンの前に現れたのが北部出身の労働者で、どうも結婚したようなしないようなよくわからない状況のまま年月が過ぎ去っている。目立ったことといえば町の店にエミリーが殺鼠剤を買いに来た事くらいである。

いよいよ彼女が埋葬された後、地元の人は四十年施錠されていた部屋をこじ開ける。そこにはベッドに横わる男の死体があったのである。

何だか地元の人は知ってたようで、エミリーがこうなるまで待っていたのである。誰も裁かれる事はない。南部の人たちの風変わりな温情である。