敗戦の混乱と失意を経て孝介と貴乃がエゾカンゾウの咲き誇る原野に立っている。
《オレンジ色の花群が、道の左右に、遥か彼方の地平線まで、敷きつめたように続いていた。その果てしないエゾカンゾウの大群落を眺めながら、二人は言葉もなかった。
しばらく行って、孝介は車をとめた。
「まあ!」
再び声を上げる貴乃に、孝介が言う。
「お貴乃さん、見事なエゾカンゾウですね」
貴乃は深くうなずいた。二万五千町歩の一大原生花園だ。そのエゾカンゾウの花原のうえに秋空のような澄んだ青空が広がっていた。》
事情があってこの後のハッピーエンドは無いという事になっているが、それでもいくつかの小さな希望を残してこの小説は幕を閉じる。日本の小説は素晴らしかった。明日からはフォークナーを読む。