東洋文庫 幕末外交談 (1898)

本書は幕僚だった田辺太一が、職務上外交の事実に通暁している立場にあったことから晩年この書を編するに及んだものである。著者はいわゆる神奈川条約、下田条約について簡潔だが正確に述べた後このように記している。(東洋文庫に収載するにあたって現代文…

東洋文庫 十王子物語 (7世紀頃)

本書は年代不明の伝奇小説作家ダンディン作とされる『十王子物語』の日本語訳である。物語の内容からダンディンは南インド出身と推測されるという。古典サンスクリット語の散文の作品と位置付けられる。 戦乱の時代、マガダ国の王ラージャハンサと王妃ヴァス…

東洋文庫 ハリス伝 (1939)

これは初代駐日本総領事タウンゼント・ハリスの長い伝記である。あまりにも長いので文章を抜粋して味わうだけにする。 《十一章 やもめ暮らしの日本生活 この盛宴のあくる日、ハリスは、マーシー長官へあててながい報告を書いた。それから寺院への引越しをや…

詩人はとんでもない場所から世界を撃つ

プルーストとアンプ作りからやっと解放された感があるこの頃、こちらの方向へ接近してみるのもいいかも。 詩人の中村稔氏が南千住製作所を語るのもシュールである。

東洋文庫 白居易詩鈔 附 ・中国古詩鈔 (9世紀頃)

ここで腰を据えて白居易(白楽天)(772~846)の詩でも味わってみよう。この文庫の編者は島根大学名誉教授森亮である。 〈別れの歌〉 さわさわと野原に茂った草、 その一歳の栄はひととせで終わる。 でも、野火に焼かれた枯れ草は亡びたのではない。 春風吹…

東洋文庫 絵本江戸風俗往来 (1905)

本書は四代目広重とされる菊池貴一郎(1849ー1925)による江戸の風俗を絵と文章で綴った活字本を収録したものである。木版による絵が豊富である。時代劇の絵コンテを高級にしたものという感じである。家業である火消について詳しく述べているので本文を一部…

東洋文庫 剪灯新話 (1378)

本書は明の時代に浙江省出身の詩人瞿佑(くゆう)によって編纂された怪異小説集である。このような小説集としてはすでに東晋の時代に『捜神記』が、魏晋南北朝の時代に『幽明録』がある。 目次を見て行くと「牡丹燈籠」がある。巻の二 地獄の夢、天台山の隠…

東洋文庫 四書五経 中国思想の形成と展開 (1965)

本書は竹内照夫氏による一般向けの書である。冒頭から神話と子不語を持ち出してきて何やら述べているが、著者はこう言いたいのである。 《『書経』の来歴 さて右に考えられているように、殷代の文字や画像では怪奇な神である舜や禹が、書経中でが完全な人格…

東洋文庫 東遊雑記 (1788)

本書は巻末にある解題によると古川古松軒が天明八年(1788年)に幕府巡見使に随行して記した紀行文である。江戸を発ち東北、北海道まで視察している。 本文を一部紹介する。 《越谷駅より粕壁の駅まで二里二十五町、この所よき駅にて倡家多し。古戸根川と号…

東洋文庫 夢の七十余年 西川亀三自伝 (1949)

本文を読んで行くと西川亀三はとてもスケールの大きい人物という印象を受ける。冒頭文もハイレベルである。少し紹介する。 《京都府(丹波国)天田郡雲原村、これがわたしの揺籃の地である。わたしはここに少年期を過ごし、その後放浪50年の風塵を払ってふた…

東洋文庫 醒睡笑 戦国の笑話 (1628)

本書は京都誓願寺の策伝和尚によって編纂された戦国・桃山時代の笑話の集成である。これにより策伝は落語の祖とも言われている。興味深かったものを一部紹介する。 《巻の三 ある人が小姓の名を、かすなぎと呼んで、使っているので、客が不審に思い、その理…

東洋文庫 長崎海軍伝習所の日々 日本滞在記抄(1860)

本書はオランダ海軍二等尉官リッダー・ホイセン・ファン・カッテンディーケが日記を元に書き下ろしたものである。幕府は海軍創設を急いでいたがそのためにオランダに軍艦建造を依頼し、オランダの勧めで艦船の操縦術の学校を長崎に作った。そこへ第二次教育…

ジャパンナリッジの東洋文庫

4年間市立図書館に通いつめて読んだ東洋文庫も臨時休館により当分は借りれなくなった。なのでジャパンナリッジに申し込んで閲覧する事に。 iPadのSlide Over機能を活用すると、読むのと書くのが同時にできるようになった。大変便利だと思う。料金は消費税込…

東洋文庫 アメリカ彦蔵自伝 1 (1892)

イギリスのテレビ局に倣い「播磨国7歳になりました」風に書く。人は7歳までに作られるという伝の検証である。 彦太郎、1837年に今の兵庫県播磨町に生誕する。幼少時に父が病死し継父に育てられる。この時浜田町に移り寺子屋に通っていた。(後年浜田彦蔵と名…

東洋文庫 名残の夢 蘭医桂川家に生まれて (1941)

本書は桂川家の次女今泉みねが晩年に口述したものを息子夫婦が筆記したもので、エッセイまたは自叙伝といったものである。本文の一部を紹介する。 《そのころ私の家には、いろんな方達が出入りされておられました。家は代々蘭学をいたしておりましたもので、…

東洋文庫 鹿洲公案 清朝地方裁判官の記録 (1730年頃)

本書は広東省の潮陽県の知事代理だった藍鼎元が記録した当時の裁判記録であり、ほぼ実際にあった事という。本文を読んで行くとわかるが、藍鼎元は大した人物であり、書かれている内容は小説以上に面白い。 1 県吏員のストライキ 飢饉と税収不足で軍の兵糧が…

失われた時を求めて (102)

第十二巻に入る。アルベルチーヌがプルーストの顔も見ずに出て行った朝のプルーストの狼狽ぶりを笑って楽しむ所である。以下引用文。(吉川一義訳) 《それでもやはり、今しがた人生から余儀なくされた新たな一大転換のあとで私に課された現実は、物理学の …

東洋文庫 楼蘭 流砂に埋もれた王都 (1931)

本書はスウェーデンの探検家スウェン・ヘディンが発掘した資料をもとにアルバート・ヘルマンが一般向けに書いたものである。発見した歴史的瞬間の記述がある。 《1900年の3月28日に、彼の一行はクルック・タグ南嶺の乾燥した谷間にあるアルトミッシュ・ブラ…

東洋文庫 アブドゥッラー物語 あるマレー人の自伝(1849)

イギリスのTV番組に倣って「マラッカ7歳になりました」方式で書く。人は7歳までに作られるという伝の検証である。 アブドゥッラー・ビン・アブドゥル・カディール1797年生まれ、マラッカ在住。曽祖父はイエメン出身という。父の名はシャイフ・アブドゥッル・…

東洋文庫 蒲寿庚の事蹟 (1923)

これは京都帝国大学教授の桑原隲蔵(くわばら じつぞう)氏による研究書である。蒲寿庚(ほじゅこう)とは宋末期に実在した泉州の市舶使でアラビア人であると推定されている。本論は、一 大食人の通商、二 支那居留の大食商賣、三 広州居留の蒲姓、四 蒲寿庚…

東洋文庫 塵壺 河合継之助日記 (1858)

本書は越後国、長岡藩士である河合継之助が三十三歳の時に記した旅日記である。本文の一部を紹介する。 《安政5年(1858年)6月7日(略) 品川に二艘の異船あり。何れも城のごとき有様、一艘の船、炮発丸、きみ好き事なり。川崎にて昼食を食す。神奈川へ八…

東洋文庫 康熙帝伝 (1697)

本書はフランスのイエズス会士ブーヴェ(1656〜1730)によって著された康熙帝に関する報告書で、ルイ14世に献呈する目的で書かれたものである。その語り口は報告書と言うよりは子供に語り聞かせるようなものに近い。本文の一部を紹介する。 《康熙帝は宝算正…

カンガルーノート (5)

第5章に入る。この辺りからは初期の短編に近い感じになっている。新交通体系研究所という看板を掲げた民家に、変なアメリカ人とトンボ眼鏡が同棲している。そこの空き地に主人公は居候する事になる。民家のそばに踏切があり電車が近づくとRUNの表示が出る仕…

カンガルーノート (4)

しばらく温泉地での話が続くかと思ったら意外にも次の場所に移動する。トンネルから鉄砲水が噴き出してきて主人公はベッドごと流されて行く。着いたところはキャベツ畑、気がつくと満月の夜、三味線を持った老婆が現われる。顔には皺が刻まれていて眼が無い…

カンガルーノート (3)

船が暗渠水路を進むと滝壺に落ち、船はバラバラに壊れベッドだけが河原に乗り上げた。周りの景色は夕暮れか朝焼けの荒涼としたもので、硫黄の匂いが鼻に付く。川は水がきれいで40度の露天温泉となっている。主人公が露天温泉に浸かっていると市の職員が現れ…

東洋文庫 東洋金鶏 (1866〜1868)

本書は幕府の旗本である川路聖謨(かわじとしあきら)がロンドン留学中の嫡孫、川路太郎に書き送った日記である。国内情勢や教訓、日常の雑事が主な内容である。本文より一部を紹介する。 《(1866年11月)廿二日 晴、夜微雨 夜に入り、例の通りお花来る。い…

東洋文庫 魯庵随筆 読書放浪 (1933)

本書は内田魯庵(1868〜1929)の第二随筆集として昭和八年に出版されたものの東洋文庫版である。内田魯庵は小説家、評論家、翻訳家として活躍し、丸善の顧問として「学燈」の編集にも携わったという。内容、文体が分かるよう本文を一部紹介する。 《 西行芭…

東洋文庫 琴棊書画 (1958)

著者の青木正児氏は京都帝大卒出身の中国文学研究者である。本書は当時山口大学教授だった著者が定年退官の頃にまとめられた論考、随想集である。 本編を読んでみて用語の多さと堅苦しさが感じられた。身近な感じのするエッセイを一部だけ紹介する。 《とあ…

東洋文庫 菅江真澄遊覧記 1 (1783年〜晩年)

本書は三河出身の大旅行家、菅江真澄による旅日記である。版本は秋田藩明徳館所蔵の稿本を元に何度か出版されているが、この東洋文庫版は五冊からなり現代文とスケッチ及び詳しい研究解説から成っている。ジャンルとしては民俗学に非常に近いが、つげ義春の…

東洋文庫 魯迅 (1965)

本書は中国文学者、丸山昇による魯迅評伝である。さまざまな文献に基づいて論考がなされているようである。イギリスのドキュメンタリーに倣って「清国7歳になりました」風に書く。 魯迅7歳、浙江省紹興城内在住。祖父は進士であったという。実家は千坪の邸宅…